東京のGlobal Packaging Symposiumで、2035年への準備が十分と答えた包装業界リーダーは半数未満でした。軽量化などの個別改善から、再生材、回収、データ、AIをつなぐ全体設計へ移る必要性と、企業が今取るべき実務の手順を整理します。
ニュースの概要
東京で開かれたGlobal Packaging Symposiumで、包装業界の将来調査の結果が紹介された。世界の業界リーダーのうち、2035年に向けて自社の準備が十分だと考える企業は半数に満たなかった。日本の回答者は、気候変動と包装の関係、プラスチックのリサイクルしやすさ、使用済み包装の回収インフラを主な課題に挙げている。議論の焦点は、軽量化や単一素材化のような個別の改善だけでは足りず、再生材の調達、回収の仕組み、データの活用、AIの導入までを一つの設計としてつなげられるかどうかに移りつつある。本稿では、この「準備不足」が何を意味するのかを読み解く。
引用元: 包装業界、2035年に向け循環性・データ・AIの統合が課題に(PKN Packaging News)
分析・見解
「準備できている」が半数未満という数字の読み方
2035年まで、あと約10年である。包装の設計から量産、回収、再資源化までを一巡させるには、数年から十年かかることも珍しくない。つまり、今日の設計判断が、そのまま2035年の姿になる。準備不足と答える企業が多いのは、怠慢というより、見通しにくさの表れだと考える。
規制は地域ごとに違い、再生材の価格も安定しない。リサイクル設備の整備は、自治体や他社の動きにも左右される。自社だけで頑張っても結果が出にくい分野なので、自信を持ちにくいのは自然である。
軽量化と単一素材化が頭打ちになる理由
軽量化は、材料費と輸送時の排出量を同時に減らせる。単一素材化(=ふたやラベルも含め、同じ種類の樹脂でそろえること)は、リサイクルの工程を簡単にする。どちらも成果が見えやすく、多くの企業が取り組んできた。
しかし、薄くすれば傷みやすくなり、食品ロスが増えるおそれがある。単一素材にすると、酸素や水分を防ぐ性能が落ちる場合もある。包装単体の改善は、どこかで別の損失とぶつかる。ここから先は、包装の外にある仕組みまで含めて考える必要がある。一方、複合素材の菓子袋や調味料のパウチは、同じ道筋を作りにくい。
回収インフラが日本の弱点として浮かぶ背景
日本の回答者が回収インフラを課題に挙げた点は、示唆に富む。日本は分別が細かく、家庭の協力度も高い。ただ、容器包装の回収は自治体ごとに運用が違い、品質の高い再生材が安定して集まる量は限られる。リサイクルしやすい設計にしても、集まらなければ再生材にならない。
たとえば飲料業界では、ペットボトルを回収して再びボトルに戻す水平リサイクルが進んだ。これは回収ルートと素材の仕様がそろっていたから成り立った例だ。欧州では、EUの包装規則がリサイクル性や再生材の含有に関するルールを段階的に定めていく。日本企業でも輸出品は無縁ではない。設計の基準が海外で先に決まる可能性は高い。
データとAIは「つなぐ道具」として効く
ここでデータとAIの出番がある。素材の種類、使用量、再生材比率、回収率が部署ごとに別の表で管理されていると、改善の効果が測れない。まず共通の台帳をつくり、その上でAIを使って設計案ごとの環境負荷や費用を比べる。この順序が現実的である。
重要なのは、AIが答えを出す前に、データの定義をそろえる作業があることだ。たとえば「再生材比率」を重量で見るのか、購入量で見るのかが部署ごとに違えば、AIも誤った結論を出す。AI導入の失敗の多くは、モデルの性能ではなく入力データの不ぞろいから起きる。派手な技術より、地味な定義づくりが勝負を分ける。
ビジネスへの影響
設計の見直しは回収の出口から逆算する
包装を変える前に、使用済みの包装がどの経路で回収され、誰が再資源化するのかを確認する。自社の製品が実際に回収される地域で、どこまで分別されているかも調べる。この出口の確認が先である。回収ルートが見えない素材への切り替えは、環境面でも費用面でも無駄になりやすい。
取引先の飲料、食品、日用品メーカーと共同で回収の実験をしたり、再資源化事業者と契約を結んだりするのが有効だ。単独で動くより、複数社で量をまとめるほうが、再生材の品質も価格も安定しやすい。
最初の半年でやるべき三つの作業
一つ目は、包装の素材、重量、再生材比率を全製品について一つの台帳にまとめることである。二つ目は、台帳の項目の意味を、設計、購買、品質、営業で合意することだ。三つ目は、AIの試験導入を「設計案の比較」のような狭い用途から始めることである。
大がかりなシステムは要らない。表計算ソフトと簡単な分析から始めて構わない。データがそろって初めて、AIは役に立つ。担当者は一人に決め、月に一度、数字の更新状況を確認する場を設けるとよい。
経営判断では回収率と調達の安定度を見る
経営層は、包装あたりのコストだけでなく、回収率、再生材の調達の安定度、規制対応の遅れで失う販売機会も並べて見るべきだ。短期の費用が増えても、2035年の取引条件を満たせないリスクのほうが大きい場合がある。
準備不足の企業が多いのは、競合も同じ位置にいるという意味でもある。今から台帳と回収の連携を整えれば、差をつける余地は十分にある。また、取引先から求められる情報の形式は今後変わるため、台帳は項目を追加できる形にしておきたい。ただし、数字だけ整えて実態が伴わない対応は、いずれ見抜かれる。
